本年度の研究実施計画に従って行った資料調査・収集に基づく研究実績は下記の通りである。 1.前年度に調査・収集した明治・大正期の長崎・神戸両造船所の帳簿類および財務諸表などの会計史料の分析結果に基づく研究成果報告書第一部「明治・大正期の長崎造船所の減価償却に関する会計史料について」で、リトルトンの減価償却生成史に準拠して、(1)棚卸項目の変形として勘定で商品棚卸の処理と同形式で行われる減価償却から、(2)予め算定された償却率によって決算毎に作成される財産目録に基づく「実地棚卸による減価償却」を経て、(3)耐用年数と残存価格に基づく「定額法」が大正12年に生成したという三段階仮説を設定した。本年度の研究目的は、この三段階仮説を検証するための資料を調査・収集・分析にあった。 2.本年度の実施計画に従って、8月10〜12日、1月28〜30日および2月8〜10日に三菱経済研究所付属史料館で、明治・大正期の長崎造船所の減価償却諸規定を中心に調査し、三菱合資会社編『例規大全』および『現行例規類纂』を収集し、明治27年「原價消却決算標準」、明治44年「原價消却規定改定」および大正12年「固定資産原價消却規定」を、また9月9〜13日および12月14〜16日に三菱重工業神戸造船所で、大正期の社報・年報・月報類を調査し、大正12年「固定資産原價消却規定」の制定に至る会計会議の開催記録などをそれぞれ入手した。 3.これらの入手資料の分析に基づき、リトルトンの減価償却生成史と対比して、上記の原価償却生成の三段階仮説を検証した。この検証結果は研究成果報告書の第二部「明治・大正期の長崎造船所の減価償却に関する諸規定について」にまとめている。
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