平成8年度は、(1)鉱山会社(114鉱山株式会社定款)、(2)保険会社(102保険会社定款)及び(3)ガス会社定款(23株式会社定款)という3業種のドイツ初期株式会社定款の利益計算規定及び決算報告実務を研究した。研究の結果ドイツの初期株式会社は配当利益計算を収入支出ないし収益費用の差額として計算している(「損益法」利益計算)ということが判明した。このような損益法利益計算の採用は保険会社及びガス会社では明確であり、定款規定でも当時の決算報告でも証明できた。鉱山会社では他業種ほどはっきりしてはいないけれども、同じく損益法を採用しているということが推定できた。これは従来の会計史研究の通説(初期株式会社は財産法利益計算を実施していたという考え方)とは異なるものである。 またガス会社の利益計算の特徴として「実物資本維持利益計算」も指摘できる。ドイツの初期ガス会社は(自己資本の他に)社債や優先株式等多額の他人資本でもって設備を所得して開業する。これら社債等の償還額は配当利益の計算上必要経費として差し引かれる。この方式では社債を全額償還しても最終的にはガス設備は会社の所有となる(今日の利益計算法式では設備の減価償却費分のみが必要経費として計上されるだけである)。ガス会社や保険会社等に見られる収入余剰計算ないし実物資本維持の利益計算は「維持すべき資本」の定義に関して我が国で将来導入されるべきキャッシュフロー会計等株式会社会計のあるべき像を研究する上で貴重な手がかりを与えるものと考える。 その他約500社の定款についてはインターネットでアクセスできるようホームページ情報としてスキャナで読み込み、構築準備中である。
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