平成8年度は19世紀ドイツの紡績会社(17社)と製造会社(製糖会社、甜菜糖工場、針金工場、鏡製造、セメント工場、化学工場、機械製造、パン工場、蒸気製粉、農業機械器具製造、鉄道用品製造会社など25社)の利益計算規定及び決算報告実務を研究した。さらに論文として約170社の19世紀ドイツ株式会社定款の評価規定についての研究を発表した(製造会社の利益決定実務については学内誌「同志社商学」に発表準備中である)。 研究結果としては、ドイツの初期株式会社は配当利益計算を収益費用ないし収入支出の差額としていわゆる「損益法」で計算しているということがわかった。これは鉄道会社、銀行あるいは保険会社などの会計報告実務と同じであった。初期株式会社が「損益法」で配当利益を計算しているという事実は、ドイツの初期株式会社の利益計算は全部の財産を時価評価して作成した財産貸借対照表をもとに「財産法」で計算していたという従来の我国会計学の一般的通説とは異なる。後者の「財産法」の考え方は商法の株式会社の債権者を保護するという要請から出てきたものである。今日の我が国の商法計算規定及び会計学上の利益概念が債権者保護という理念から出てきたということは、企業経営上あるべき利益計算方法や利益を計算するための維持すべき資産(資本)の定義を研究するための基礎となるものである。すなわち資金の調達源泉の相違に関係なく、企業経営上維持すべき資産を資本と考えるならば、現代の企業経営とは大きく異なるキャッシュフローを利益とする計算方式などが考えられるからである。入手した株式会社定款や営業報告書、関係する法律や命令等についてはネット上でアクセスできるように準備中である。
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