本研究では、我が国会社法が模範としたドイツ株式会社法成立前の1800年認可ベルリン製糖会社から1870年ユニオン種馬ホッペガルデン株式会社まで約500株式会社定款並びに当時の決算報告書等を手がかりにして、当時の会計実務、特に配当利益決定実務の研究をおこなった。株式会社の業種は、(1)鉄道会社(約70社)、(2)銀行(約75銀行)、(3)鉱山会社(約100社)、(4)保険会社(約100社)、(5)紡績会社(約15社)、(6)ガス照明会社(約20社)、(7)汽船会社(約15社)、(8)建設会社(約20社)、(9)公益会社(約20社)、(10)製造会社(約30社)、(11)その他株式会社(約40社)であった。 研究の結果、ドイツの初期株式会社の配当利益を収入支出ないし収益費用の差額として、いわゆる損益法利益計算方法で計算していることが分かった。この事実は、株式会社の利益計算は財産法から損益法へ移行したとする、会計学の従来の通説と異なっていた。さらに個々の定款規定を詳細に分析すると「実物資本維持利益計算」(設備等の企業経営上不可欠の資産を維持したのちの現金キャッシュフローを利益とする計算方式)をおこなっていることが分かった。現代会計学は、名目資本金額を超える貸借対照表余剰を利益とする「名目資本維持利益計算」を実施している。研究の結果、名目資本維持利益計算は商法成立前の株式会社会計では必ずしも行われておらず、商法が株式会社設立で準則主義を採用するさいに会社債権者保護を目的に規定を設けたものであることが分かった。これら事実は、さらに研究を続けることによって、我が国企業経営上のあるべき利益計算方式を考えるための重要な視点を提供するものであると考える。本研究によって入手した約500株式会社定款等は全世界の研究者にインターネットを通じて提供できるように現在ホームページを構築準備中である。
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