会計制度、特にドイツの会計制度に軌範を求めながら、貸借対照表計上能力の拡大化の傾向を解明すると、貸借対照表に計上されるかどうかについては、「計上選択権」が付与されて、自由裁量の余地がある。計上選択権の行使いかんによっては、秘密積立金政策の新たな温床にもなりかねないだけに、秘密積立金政策の転換の鍵ともなる計上選択権自体が付与される根拠を検討すること(1年度)、同時に、この背後にある「論理と政策の相互関係」を模索すること(2年度)を意図している。 本年度は、貸借対照表計上能力が「損益計算の視点」から純化される傾向と「情報開示の視点」から拡張される傾向を、改めて検討することから開始した。さらに、1985年のドイツ商法には「計上しなければならない」と規定される計上義務、「計上してはならない」と規定される計上禁止に加えて、「計上することができる」と規定される計上選択権、したがって、貸借対照表に計上されるかどうかの自由裁量の余地もあるので、計上選択権にいかに歯止めを掛けるかの選択権問題を解明しておかねばならない。対象問題、さらに、帰属問題をいかに解決しえたにしても、計上選択権の行使のいかんによっては、こうしたことも徒労になりかねないからである。そこで、1870年のドイツ株式法に「組織費」の資産化禁止、1937年のドイツ株式法に「経営整備費」の資産化選択権が規定された事情から想像かつ実証して、計上選択権の付与される根拠を検討した。しかし、新たに計上義務が規定されたことで、計上選択権「自体」に歯止めが掛けられていること、また、計上選択権の「行使」には、損益計算の論理からする「評価継続性の原則」によってでなく、情報開示の論理からする「継続性中断の開示性の原則」および「選択権行使の開示性の原則」によって歯止めが掛けられていることについては、いまからの思索に頼らざるをえない。
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