研究概要 |
本研究は,申請者の17年間の研究によって詳しく明らかにされた非線型微分方程式の体域的構造を,純粋数学のみならず,広く諸科学に応用することを目的として申請された.その際に,確率論的揺らぎを取り入れることが,特徴の一つであった. これらの目的は,別掲の論文4件によって,申請者の従来の理論が,生物,化学,さらには社会数理において,全く新たな視点を提供する理論として達成することができた.これらの論文はすべて,非線型,非平衡系,開放系であることを特徴とする. 1.具体的には,まず,別掲の論文1においては,マルコフ過程に付随したdiffusion方程式の解析から,光合成過程において重要なporphyrinに,申請者による幾何学及び変分学に起源を持つ非線型理論を適用することにより,porphyrinの生成起源を解明することに成功した. 2.別掲の論文2においては,窒素循環という,エコロジーにおいても重要な要素にPlanktonの繁殖過程を組み込み,申請者の非線型理論を適用することにより,この分野に全く新しい側面を提供し,古典的なShapiroの実験結果に説明を与えることに成功した.この成果は,イギリスのCambridge大学から招待を受け,ニュートン研究所における国際研究集会で発表された. 3.別掲の論文3及び4において,申請者の純粋数学における非線型理論が,社会数理においても有用であることが示された.従来,社会数理において用いられてきた期待効用最大化にもとづく理論を,非線型な動的構造を持つ社会に適用した場合,全く新しい現象,一種の相転移とも言うべき現象が発見された.しかし,この数学的構造の解明には,純粋数学に立ち帰ってのさらなる研究を要するものと思われる.
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