脳認知系における脳内ダイナミクスと符号化の機構について、近来のニューロ・イメージングや、多細胞同時記録からのJPSTHなど、従来の符号化理論では捉えきれないデータが見られ、他方、情報統合の問題などの理論的困難が存在する。この研究では、近来の実験データに基礎をおきつつ、これらの理論的困難を統合的に解決する可能性として、相関符号化理論に基づく脳認知系の情報符号化機構についての新しい仮説-動的セル・アセンブリー仮説を提唱し、その生理学的・数理的な検証の必要性を提起した。本研究は、その主張を理論的、および生理学的に検証するための作業である。 ●初年度-理論的見取り図としての新しい仮説-動的セル・アセンブリー仮説の提唱 論文[1]で、脳の符号化機構を脳内ダイナミクスと情報表現(符号化)の2つのレベルから統合的に把える枠組みを探求した。情報のキャリアと表現に関する実験的・理論的パラダイムのレビューにつづいて、時空間符号化に関する描像として動的細胞集成体仮説を提出した。脳認知系の神経回路網がコインシデンス・ディテクター的特性を持つニューロン系であるという作業仮説の下に、ダイナミクスの中心的概念としての動的細胞集成体の理論的記述、相関ダイナミクスによる符号化原理の可能性を探究した。符号化の立場からは、皮質における基本コードは、スパイク間の発火タイミングという関係性であることが主張される。また、コインシデンス・ディテクター系の動作原理を示すためのミニマム・モデルを提示した。1つの重要な示唆として、ここで提示した概念が統合問題への脳の解答である可能性を指摘した。[3] ●2年度において、情報統合に関する理論的試論として、“束ね"の相関シナリオ[5]を提示した。また、“束ね"の相関シナリオに基づく抽象コインシデンス・ディテクター系によるバインディング問題を具体的に解くコンピュータ・モデルを提示[3]した。
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