重力収縮・分裂などによって力学的に進化している暗黒星雲やT Tauri型星の周りにある原始惑星系円盤における分子の形成を理論的に解明するため、宇宙線によるガスの電離に始まる化学反応ネットワークを用いて、次の研究を行った。 1.含まれる粒子(分子、イオンなど)が372種類、化学反応が4095種類にまで拡張した最新の反応を求め、力学的に進化しているガス雲で星間分子の形成を調べるための基礎研究を行った。この反応ネットワークによって暗黒星雲で観測されている炭素鎖分子などの存在量がよく再現できること、密度、温度、気相にある元素の組成によって各分子の存在量が大きく変化することが明らかになった。 2.重力収縮する暗黒星雲のモデルとして相似解を採用し、密度が時間的に変化(増大)しているガス雲における化学進化を調べるためのプログラムを開発して、テスト計算を行った。今後、さまざまな力学的進化のモデルについて分子の存在量の時間変化を調べる計画である。 3.反応ネットワークに気相にある粒子の個体微粒子(ダスト)への吸着を追加して、T Tauri型星の周りにある原始惑星系円盤での化学進化を研究した。その結果、宇宙線によるガスの電離からできた活性なイオンによって、一酸化炭素、窒素分子などが二酸化炭素(CO_2)、アンモニア(NH_3)に変化し、低温の領域ではダスト上に吸着されることを見いだした。これによって、円盤内では酸化的な分子(CO_2)と還元的な分子(NH_3)が自然に共存できることが明らかになった。さらに、中心星からの距離によって各分子の存在量が大きく変化していることも示した。
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