本研究の目的は、可視領域のマルチスリット方式による多天体分光器を製作し、近傍銀河団の銀河の視線速度を測り、それをもとに銀河団の力学質量を求めるというものであった。分光器の製作は平成9年度に終了し、昨年度と本年度に実験室レベルでの基本性能のチェックを行なった。また、解析ソフトの開発も行なった。当初の計画では今年度に本観測を行ない銀河団のデータを取得することになっていたが、我々が想定していた1mクラスの適切な望遠鏡の観測時間を得ることができず、データは取得できなかった。そこで、現在我々が所有している銀河(団)のデータを用いて、本研究の趣旨にのっとり、以下の研究を行なった。 1.銀河の多数写った撮像データから銀河団の候補を自動的に見つけ出すソフトを開発し、それを実際の撮像データに適用し、予想通りの性能があることを確認した。このソフトは観測対象となる銀河団の選定に有用である。 2.かみのけ座銀河団という巨大銀河団の矮小銀河の性質を調べた。その結果、かみのけ座銀河団の矮小銀河の測光的性質が、おとめ座銀河団(かみのけ座銀河団とは対照的な、不規則で貧弱な銀河団)の矮小銀河と同じであることがわかった。このことは、矮小銀河の性質が環境によらず普遍的であることを示唆する。 3.約10個の近傍銀河団の撮像データを用いて、銀河団に属する銀河の光度関数を求めた。その結果、光度関数の形は銀河団間でばらつくものの、銀河団全体で平均を取ればフィールド銀河の光度関数と誤差の範囲で一致すること、銀河の形態別の光度関数は銀河団間で似通っていることがわかった。
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