研究概要 |
宇宙で起こる物理現象を基礎法則に従い理解しようとするとき,場の理論にもとづく素過程が周りの宇宙環境でどのように変更を受けるかが問題となる.基本的な考えとして,有限自由度の注目系に結合した連続無限個の環境自由度が存在することを散逸の本質であるとして,ハミルトニアンとして調和振動子模型か類似の模型を採用した.事実,このような量子散逸の理論は過去に精力的に研究されてきたが,摩擦項を局所的として扱う不十分な近似がほとんどであった.この研究では,調和振動子系の厳密な量子散逸理論を局所近似によらずに構築して,解くことができた.さらに,宇宙初期現象への応用として,宇宙膨脹の結果を含む粒子数密度,状態占拠数に対する時間発展方程式を導き解析した.その結果として得られたことは,(1)励起状態の崩壊(素粒子の2体崩壊などを含む)において,いわゆる質量殻上の寄与からくるもの以外に,off-shellの効果が,寿命より永い時間では支配的であること,すなわち,時刻無限大の漸近的振舞いは時間の指数法則ではなくて,べき法則であることを確認した. (2)粒子崩壊における不安定粒子の最終的な残留量は,低温の極限でボルツマン因子を含まない温度のべきになることを,宇宙膨張を含む時間発展方程式を解析して示し,数値計算により確認した. (3)重い粒子崩壊によるバリオン非対称生成に与えるoff-shell効果の影響を,時間発展方程式をたてて解析し,数値的に解くことにより明らかにした.従来の理解では,崩壊の逆過程を阻止して親のX粒子密度を大きくする必要性が強調されていたが,この条件がoff-shell効果により大幅に修正されることを定量的に示した.
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