今年度は、格子QCDの数値シミュレーションの手法を用いて有限温度相転移の研究をおこなった。格子QCDの数値計算ではウィルソン・フェルミオンと呼ばれる格子フェルミオンの定式化を用いるが、この方法はカイラル対称性をあらわに壊してしまうために相構造そのものがよく理解されていなかった。代表研究者は以前の研究で、ウィルソン・フェルミオンの格子QCDに存在するゼロ質量のパイ中間子をパリティ・フレーバー対称性を破る相転移に付随するゼロ・モードと解釈できることを発見した。さらにこの解釈を用いてクォークのフレーバー数が2の場合の有限温度の相構造を明らかにした。 今年度はこの解析法を発展させ以下の点を研究した。 (1)フレーバー数が4の場合の有限温度の相構造と調べ、2フレーバーの場合と類似の構造をしていることを発見し、我々の解釈が一般の場合でも正しいことを示した。また、時間方向の長さが4の場合は、有限温度相転移が予想とは違って2次転移らしいことも明らかにした。今後の研究で時間方向の長さをのばして連続極限に近づけた時に2次転移のままかどうかを調べる予定である。 (2)パリティ・フレーバー対称性の破れのオーダーパラメタに対する外場を加えたシミュレーションを2フレーバーの場合におこなって、予想通りに対称性の破れが起こっていることを確認した。 (3)改良された格子作用の場合も同様の相構造であることを確認した。 これらの結果は1996年6月の国際会議で発表し、現在論文を準備中である。
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