研究概要 |
強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)の低エネルギーにおける重要な要素であるカイラル対称性の自発的破れを強調した南部ジョナラジニオ(NJL)模型で3個のクォークに対する相対論的Faddeev方程式の解として核子を記述する研究において,本年度は得られた解を用いて電磁的モーメントと弱い相互作用の結合定数を計算し,また,同じNJL模型での核子の記述法として知られている平均場近似との関係を明らかにすることを試みた。前者では,先ず,最も簡単な軸性ベクトル結合定数を計算し,アイソベクトル部分については実験値と矛盾しない値を得たが、アイソスカラー部分は,高エネルギー電子,ミュオン実験で得られている陽子のクォークスピン期待値の実験値より相当大きな計算値となった。真空偏極による1粒子演算子への補正が重要であろうと考えられる。また,磁気モーメントでは,陽子・中性子の比は実験を大体再現したが,絶対値は実験値の2/3程度であった。これはバクグ模型など相対論的クォーク模型に共通の弱点で,やはり真空偏極が必要なのかもしれない。電荷半径については,陽子,中性子ともに実験値と矛盾しない値を得た。これはFaddeev方程式の解としての核子が合理的な大きさをもつことを意味する。平均場近似との比較では,クォーク間の中間子交換、特にパイオン交換が重要であること,これが平均場近似におけるカイラル場の重要性と対応していること等がわかった。これらの研究は,大学院生浅海および原振特別研究員石井との共同研究で行なわれた。
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