この研究の目的は、カイラル対称性とその自発的破れを強調した量子色力学(QCD)の有効模型としての南部・ジョナーラシニオ(NJL)模型による核子の内部構造の研究を発展させ、核子の構造関数などその動力学的側面を調べるとともに、この模型に欠けている閉じ込めの要素を取り入れることと核媒質中での核子の内部構造の変化を研究することであった。そのためにまずNJL模型の光円錐上での定式化を行った。光円錐上ではフェルミオンの4成分中2成分が従属変数となることが知られているが、これを消去するために補助場を導入し、その補助場に対する方程式を1/N展開法で解くことにより、カイラル対称性の自発的破れが記述できることを示した。また、これに基いてハミルトニアンを求め、パイオンが南部・ゴールドストーン粒子として現れることを示して、その構造関数を計算した。光円錐上の場の理論では発散の正則化が重要な問題となるが、通常の定式化での正則化とほぼ同等なものと同時に、光円錐座標の特性を生かしたものを考察し、後者が優れていることを指摘した。この枠組は、光円錐上でのカイラル対称性の記述という、より一般的な課題への第一歩となると期待している。3個のクォークの相対論的束縛状態としての核子にこの手法を応用し、その構造関数を計算することは現在進行中で、一部はすでに発表した。閉じ込めに関しては、相対論的調和振動子クォーク模型による核子の核媒質中での振舞いを、色透明度(color transparency)の問題と関連して研究した。また、ストレンジネス核物質の可能性に関連してH-ダイバリオン同士の相互作用の研究も行った。
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