研究概要 |
低エネルギーQCDの特徴である,カイラル対称性の自発破れと,軸性U(1)対称性の破れの関連を統一的に理解するために,主に,エータ中間子の性質をクォーク模型を用いて研究した.軸性U(1)対称性の破れは,クォーク質量によるSU(3)対称性の破れと競合して,エータにおけるSU(3)1重項と8重項の混合角を決める.今年度は,エータの質量や電磁崩壊モードである,エータ→2光子,→2光子+パイ0,→2光子+レプトン対,の確率,分布などの混合角依存性を調べることによって,軸性U(1)対称性の破れの大きさを評価した.従来の2光子崩壊の解析は重いエータプライム中間子をエータと同様に扱っていて不十分であることを指摘した.具体的にはカイラル対称性を動的に破る南部-Jona-Lasinio有効模型を用いて,エータをベ-テ・サルピーター方程式の解として求めた.エータの電磁崩壊は結合定数に関する摂動論を用いて計算した.その結果従来言われているより3-5倍程度大きい軸性U(1)対称性の破れが必要である事が解かり,エータはほぼフレーヴァーSU(3)の8重項で表わされ,1重項の混ざりが小さいことを指摘した.この結果を踏まえて,従来の解析を再解析した.例えば,2光子崩壊過程に関するこれまでの解析は,エータ,エータ'の質量が小さいという仮定の下でしか成り立たない関係式を基礎にしていて不適当である事など,従来の解析にはそれぞれ問題があることを指摘した.年度後半には,さらにQCD和則の手法を用いて,軸性U(1)の破れを研究する準備として,カイラル対称性を考慮したバリオンとバリオン励起状態を解析した.
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