研究概要 |
複素スケール法により核子多体系及びバリオン多体系の共鳴状態の構造を束縛状態と同様に理論的解析ができるようになった成果の最初の一つは、"^<10>Heの共鳴状態"の理論的解析である。^<10>Heでは束縛状態が無く基底状態が共鳴状態であり、その共鳴状態が実験的に見出されたので、その構造解析を行なった。^<11>Liとの対比で、共通の二体相互作用で両者が矛盾無く理論的に導けるとする内容である。成果の第二は、"鏡映核である^<10>Nと^<10>Liの共鳴状態の構造解析である。^<10>Liの共鳴状態は^9Liと中性子の相互作用の情報源であり、p_<1/2>とs_<1/2>の二つの共鳴状態が近接してあるのではと実験結果から間接的に推定されている。そこで、クーロン障壁のある鏡映核^<10>Nをとり、その共鳴エネルギーを理論的に導出した。実験が待たれる。 最近の際立った成果は次の二つである。その第一は、"ハロー構造を持つs軌道状態とその鏡映核同状態間の異常エネルギーシフトの機構解明"である。鏡映核でのアイソスピン多重項はクーロン相互作用のため、そのずれ方がs軌道状態では特に大きいことがトーマス・エールマン効果として知られている。これがハロー構造を持つs軌道状態ではどうなるのか興味深い課題である。その解析の結果、これまでのクーロン力による"ずれ"だけでなく、それに匹敵する運動エネルギーの減少による"ずれ"の存在が明かにされた。これは複素スケーリング法によって得られた共鳴状態の波動関数による運動エネルギー,ポテンシャルエネルギー、クーロンエネルギー等の期待値の解析を通じて明らかにされた。共鳴状態の構造を詳細に解析し生み出された典型的な成果である。もう一つは、J^P=0^+対相関のパウリ・プロッキングによって誘起される^9Li-n間相互作用に及ぼす動的効果の導出であるこれによって、変形構造を持たない^<10>Li核でs軌道状態とp軌道状態が何故近接して現れるかの理論的理由がはじめて与えられたのである。
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