クオーク・レプトンの質量と小林・益川行列は特徴的な構造を示している。これらの特徴を理論的かつ包括的に説明する試みは、これまで殆ど成功していない。本研究計画は、この問題を超弦理論を基礎に説明しようとする試みである。超弦理論からの有効理論は一般にコンパクト空間に起因する離散R対称性をもつが、このR対称性は相互作用に対して強い選択則を与える。ここでは、特異点を持たないカラビ・ヤウのコンパクト化を出発点にとり、超弦理論の有効理論としての模型を採用し、ゲージ対称性をSU(6)×SU(2)ととる。この時、ゲージ対称性の破れのスケールが、まず選択則によって定められる。同時に、低エネルギーまでRパリテイーが保存する解がえられた。その結果、低エネルギー有効理論における有効湯川結合定数も定まる。この模型の特徴は、離散R対称性の電荷を、SU(6)×SU(2)の規約表現に属する其々の物質場に当てはめることで、質量スペクトルが定まることにある。ところが、down-クオークとレプトンは他の場との状態混合が起き、プランク・スケールではup-クオークとの対称性があるにもかかわらず、低エネルギーではup-クオークとは違ったスペクトルが得られる。我々が見出だした解は、この機構の結果、現実の質量をかなりよく再現するだけでなく、小林・益川行列も同時に再現できることを導いた。さらに、この解は陽子の寿命についても実験と矛盾しない事も示した。また、超弦模型にあるように標準模型にsinglet場が付け加わった場合のCPの破れの特徴とヒッグスのスペクトルとの関係についても解明した。
|