最近になって原子核の高速回転運動の詳細な研究が可能になってきが、これらを理論的に分析するために基本となるのが慣性主軸の回りの一様回転の描像に基づく平均場近似を用いたクランキング模型である。本年度の研究では昨年度に引続きこの通常のクランキング模型を拡張して、慣性主軸から傾いた軸の回りの一般的な回転運動を取り扱えるように拡張したクランキング模型(斜向クランキング)による分析を進めることが目的であった。 第一に行なったことは、この斜向クランキング近似によりどのような物理的効果が取り込まれているかについて具体的に解ける簡単な場合に厳密解と比べてみることであり、良く用いられる1準粒子-回転子結合模型について調べてみた。これまで変形が軸対称で傾きの角度が1つの場合には研究がなされてきたが、今回初めて非軸対称変形の場合について系統的に回転エネルギーと電磁遷移確率の計算を行なった。結果としては、角運動量ベクトルの変形主軸からの傾きが回転角速度の増大とともに変化する効果は電磁遷移に大きな影響をあたえるが、拡張されたクランキング近似はこの効果をかなり良く記述できることがわかった。 第二に行なったことは、特に、非軸対称な一般的な場合に対して、この斜向クランキングの方法を現実の原子核に適用することである。昨年度から本年度にかけてこのための一般的な計算プログラムを完成し、現実的計算が可能になった。現在、いろいろな場合に応用した結果をまとめつつある。特に、最近いろいろな原子核の領域で発見されつつある強いM1遷移で結ばれた回転バンドや、大きくK量子数を変化させる高スピンアイソマ-の崩壊の問題についてこの斜向クランキングの方法を適用し、回転軸の傾きの自由度に対する新たな知見が得られるものと期待している。
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