原子核の高速回転状態を理論的に記述する方法としては自己無撞着に決められた変形場に対する一つの慣性主軸の回りの一様回転の描像に基づくクランキング模型、すなわち、回転系での平均場近似の方法が用いられてきた。しかし、最近ではこのような単純な描像に基づく近似的方法では不十分な現象がいくつか見つかっており、本研究では、より適用範囲の広い拡張されたクランキング模型を考察し、最近の多くの実験データを統一的に実験することを試みた。 拡張の方向として第一に考察したのは比較的角運動量が低い場合の取扱いである。通常のクランキング模型では高スピン極限での半古典的近似を用いているので低スピン領域での電磁遷移確率を正しく評価できない。本研究では、集団的回転運動に伴う幾何学的効果(C1ebsh-Gordan係数)を量子力学的により正確に取り扱うことによりこの欠点を克服する方法を考案し、物理量の行列要素を精度良く計算する一般的処方を与えることに成功した。そして、クーロン励起反応によって選択的に励起される種々の回転バンドに適用しこの方法が有効であることを確かめた。 第二の拡張は、半古典近似はとるものの回転軸向きが変形の慣性主軸から傾いたような一般的な回転運動を取り扱えるようにすることである(斜向クランキング)。はじめにこの斜向クランキング近似によりどのような物理的効果が取り込まれているかについて、具体的に解ける簡単な場合に厳密解と比較することにより調べた。角運動量ベクトルの変形主軸からの傾きの効果は電磁遷移に大きな影響をあたえるが、拡張されたクランキング近似はこの効果をかなり良く記述できることがわかった。次にこの斜向クランキングの方法を現実の原子核に適用できるような一般的な計算プログラムを作成した。これによって原子核の高速回転状態に対する新たな知見が得られるものと期待している。
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