研究概要 |
昨年度の成果に基づき,本年度はこれをより現実的,定量的なものにすることを中心に研究を行った。 1.理研山路氏により微視的に導出された核摩擦係数を用い,3次元ランジュバン方程式による励起核分裂の研究を行った。これまで用いてきた巨視的模型による核摩擦係数による結果と比較し,特に温度依存性に注目して解析を行っているところである。 2.原子番号80以上で見られるFusion Hindranceの現象を,3次元ランジュバン方程式により融合・分裂過程を統一的に取り扱って研究した。対称に近い系での実験データを再現し,模型の妥当性を示した。さらに質量非対称度の大きい系にも適用し,データと比較した。 3.超重元素合成の動力学を2次元散逸動力学模型で研究した。この模型は,反応過程を二段階に分けた上で2次元ランジュバン方程式と2次元スモルコフスキー方程式を適用するものである。超重原子核の合成において励起エネルギー25MeV程度の反応において収量が最大となるという理論的予言を行った。このとき中性子放出による殻補正エネルギーの回復が重要であることを示し,中性子過剰核による実験を提唱した。 4.重い入射粒子を軽い標的に衝突させるというInverse Kinemeticsによる結晶ブロッキング法という新しい実験手法により,高励起核の分裂寿命に対する直接的な測定が開始された。新しいデータは,これまでより長い寿命を示唆している。これに対して,統計模型および散逸動力学模型により解析を行い,このデータがこれまでのものと質的に異なることを確認し,分裂時間を大きくしている動的機構について検討した。
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