本研究の目的は、液体やガラス中の色素分子を対象としてインコヒーレント光フォトンエコーの実験を試み、その結果とスペクトル上で得られた実験結果とを併せて解析し、溶質溶媒相互作用による超高速緩和過程を明らかにすることである。試料としてβ-カロチンのエタノール溶液を用いた。フォトンエコーの実験は、室温から約20Kまでの温度範囲で行った。まず室温においては、信号はピークに対して対称的で、時間幅(半値全幅)は約40フェムト秒である。この幅はこの実験系の装置幅に対応している。温度を下げるとともに信号は非対称になり、減衰が遅くなる。信号が1/eに減衰する時間(ここでは減衰時間とよぶことにする)は34Kでも14フェムト秒程度であり大変早い。 位相緩和の原因となる色素分子と周りの液体との相互作用のダイナミクスを、電子系と線形相互作用をする調和振動子の集合でモデル化して考え、フォトンエコーの実験結果の解析を行った。そのために、調和振動子の状態密度分布を仮定し、非マルコフ効果を考慮した理論からエコー信号の計算を行った。その結果、時間のおそい領域でほぼ指数関数的になることやその減衰時間は実験結果とよく一致した。また、温度変化の計算も実験結果をほぼ再現した。エネルギーゆらぎの振幅は、34Kで150cm^<-1>、ゆらぎの早さは30cm^<-1>程度である。したがって、ゆらぎの振幅と早さの比は5程度になり、この系の位相緩和が非マルコフ的であることを示している。また、これらの結果は発光スペクトルの測定結果をよく再現することが分かった。現在、いろいろな溶媒について、同様の実験、解析を進めている。溶媒の性質が変化すると溶質溶媒相互作用の様子も変化する。それらと超高速位相緩和過程との関連を系統的に解析する予定である。
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