研究概要 |
液体中に色素分子が溶質として入ると、その光学的位相緩和過程には、溶媒の散逸的性質だけでなくその動的性質も現れる非マルコフ的緩和現象が観測される。この過程を理解することは、光学過程を通して物質中の緩和現象を研究する上で一般性を持つ非常に重要な課題である。しかし、その詳細については実験的にも未解明な点が多い。そこで本研究では、この光学的位相緩和過程の機構を明らかにすることを目的として、フォトンエコーの測定を行い、溶質溶媒相互作用におけるフォノン構造の解析を行った。 液体やガラス中の色素分子(β-カロチン)を対象としてインコヒーレント光フォトンエコーの測定を室温から40Kの温度範囲で約60フェムト秒の時間分解能で行った。測定結果を、位相緩和の原因となる色素分子と周りの液体との相互作用のダイナミクスについて、電子系と線形相互作用をする調和振動子の状態密度分布を仮定し、非マルコフ効果を考慮した理論を用いて解析した。その結果、溶質溶媒相互作用に伴うエネルギーゆらぎの振幅Dおよび平均フォノンエネルギーω_0の値を得た。D/ω_0は5程度になり、このことはこの系におけるエネルギーゆらぎの特性が,位相緩和時間よりもゆらぎの相関時間の方が長い“遅いゆらぎ"の領域にあることを示している。またこれらの結果は、二次光学過程(発光・ラマン散乱)の測定結果も統一的に説明できることを明らかにした。さらに、液体からガラス状態において、ブピコ秒から数十ピコ秒の緩和時間を持つエネルギー緩和過程が存在することを示した。今後時間分解能をさらに向上させた実験を行い、超高速位相緩和過程における溶質溶媒相互作用の役割を明らかにしたい。
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