ガラス・非晶質は結晶とは異なる種々の物性を示す。特に顕著な相違は1meVから10meVの低エネルギー領域、光で言えば遠赤外領域に現れる。この性質は系を構成する元素や金属・半導体・絶縁体ガラスによらず共通に見られることから、構造の不規則性、特に中間距離構造に起因すると考えられているが、その起源は未だ明らかにされていない。 そこで本研究では、まず最も代表的なガラスであるシリカガラスを取り上げ、自作した干渉分光計を整備することによりその遠赤外吸収を精密に測定し、吸収係数の振動数依存性を求めた。特にここでは産業的にも基礎的にも重要なガラス中の水酸基の構造および物性への影響を吸収の絶対測定という利点を活用して定量的に調べた。このため水酸基含有量の異なるシリカガラスの試料を作成した。吸収測定の結果、次の事実が明らかとなった。 1、水酸基はボゾンピークに相当する遠赤外吸収を増大させると共に、ピーク位置を低波数側へ移動させる 2、水酸基による吸収の絶対増大量は振動数と共に増大するが、増大量の割合は非常に特異な振動数依存性を示した。すなわち、〜17cm^<-1>から〜50cm^<-1>の領域では振動数の-1.7のベキ則に従って減少し、〜17cm^<-1>以下では振動数にほとんどよらずほぼ一定で、〜50cm^<-1>以上ではベキ則からのズレが観測された。 3、実験的に求めた光-振動の結合係数の振動数依存性を各種モデルで考察した結果、30cm^<-1>以上ではフラクタルモデルの予測と良い対応を示しているが、それ以下はどのモデルでも説明できなかった。 4、今後、吸収の温度変化、測定波数範囲の拡大、他のガラスやポリマー等に研究対象を広げると共に、これら複雑な系の特異な低エネルギー物性の起源を解明することが重要である。
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