研究概要 |
カーボン・ナノチューブは,フラーレン分子の製造過程でNECの飯島により偶然に発見された.半径ナノメートル程度の黒鉛の極微細管である.透過電子顕微鏡による詳細な観察の結果,カーボン・ナノチューブは,中心部分が空洞で2次元グラファイト面を丸めて得られる円筒状をしていることが明らかになった.また,長さ1μmと非常に長いものもあり,円筒は数枚のグラファイト面からなる.さらに,それぞれの円筒上では炭素の6員環が管の軸方向に螺旋状に配置しており,その螺旋のピッチも様々である.最近では1枚のグラファイト面からなるナノチューブも作られるようになった. カーボン・ナノチューブは天然に作られた擬1次元物質であるが,半導体ヘテロ構造で人工的に作られた量子細線とは非常に異なっている.それは,ナノチューブが通常の量子細線とはトポロジカルに異なっていることと,2次元グラファイト上で電子が自由電子とは非常に異なった運動をすることに起因する.この研究の目的は,ナノチューブのトポロジーが磁場中での電子状態,特に輸送現象に及ぼす効果を,有効質量近似を用いて理論的に明らかにすることである.具体的には以下のような問題である. (1)電気伝導に対する磁場効果 (2)電気伝導に対するナノチューブのトポロジーの効果. (3)強磁場中の格子歪みとその電気伝導に及ぼす効果. (4)トポロジカル欠陥の電子状態と電気伝導に及ぼす効果. 平成8年度は,これに対し,以下のような研究を行った.Weylの方程式をもとに,不純物や欠陥が存在するときのナノチューブの電気伝導率を,ボルツマン輸送方程式を用いて計算し,バンド構造の磁場による変化が伝導現象に直接現れることをしめした.さらに,コンダクタンスゆらぎや局在効果を厳密に調べるために,数値シミュレーションを開始し,予備的な計算が進行している.これを来年度さらに発展させる.さらに,ナノチューブでの励起子スペクトルについての計算を行った.
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