最近、大阪市立大学の中山らはタイプ-II GaAs/AlAs短周期超格子における光ルミネッセンス測定において、励起子線の低エレルギー側に新たな発光線を見出した。この発光線は、発光強度のエネルギー依存性および低エネルギー側にテ-ルを引くことなどから励起子分子中の電子正孔ペアの再結合によるものと考えられる。そのタイプ-I超格子の場合と比較しての特徴は、はるかに低い励起光強度から発光が見られることと、励起子線とのエレルギー差で見積もられる励起子分子の結合エレルギーが大きいことである。 このようなことから、タイプ-II超格子における励起子分子とタイプ-I超格子における励起子分子との共通点および相違点を明らかにしておくことは重要であると考えられる。また、タイプ-II超格子においては、電子と正孔が空間的に分離していることから、例えば「二つの正孔が同一の層に依存する確率と異なった層にいる確率のどちらが高いのか」などといった、トポロジカルな問題も存在する。本研究では、変分法による計算を通じてタイプ-II超格子における励起子分子の特徴を明らかにすることを試みた。 6パラメータの変分関数を用いた計算の結果、GaAs層とAlAs層の厚さが同じで、膜厚が28〜36Aの場合、励起子分子は二つの正孔が同じGaAs層にあり電子が両側のAlAs層にある配置が安定であった。結合エレルギーはおよそ2.5meVで膜厚が薄くなるにつれて増大するが、この値は測定値と比較して約1meV小さい。この差は、変分関数を改良することが必要であることを示しているが、その作業は現在進行中である。また、結合エレルギーが大きいことはタイプ-II超格子の特徴ではなく、単に膜厚が薄いためであることがわかった。タイプ-II超格子の特性を引き出すためには、各層の間隔がさらに広くなることが必要であることがわかった。
|