実際に興味深い現象が起こっている表面界面に対して超高感度のラマン分光解析を行い、興味深い現象のもととなっている表面界面科学現象の抽出および解明をすることを目的に研究を行った。 1. まず、微弱なラマン散乱光を観測するために、明るいシングル分光器とII-CCDを組み合わせた超高感度ラマン分光システムを構築した。 2. ユニークな構造(平面網目状の縮合多環芳香族分子が平行に積層)をもつ炭素メソフェーズ球晶の光照射処理による構造変化をラマン分光で評価した。この材料に514.5nmの強い光を照射したところ、局所的な対称性の破れによって生じるDバンド(1350cm^<-1>)のラマン強度が増大し、黒鉛分子平面内の骨格振動のE_<2g>バンド(1580cm^<-1>)の線幅が減少した。この結果は、光照射により多環芳香族構造の架橋結合部分が開裂することで新たなエッジ部分が生じDバンド強度が増大し、また骨格振動はより純粋になりE_<2g>バンド幅が減少したと解釈することができる。この光照射処理による構造変化は、通常の熱処理によるものと異なることが分かった。 3. ポリマーの重合に用いられているZiegler-Natta触媒の触媒表面でおこる化学反応のメカニズムを明らかにすることを最終的な目的として、触媒原料であるα-TiCl_3結晶のラマン観測を行った。(1)不純物の混入の少ない製法で作られた試料を用いる、(2)酸素と水分に反応しやすいα-TiCl_3を窒素雰囲気中に保つ、(3)新鮮な表面を出すために適切な条件の試料粉砕を行い、その結晶性をX線回折で確認する、(4)ラマン観測時のレーザー照射による熱的(あるいは光反応による)変質を避けるため弱励起条件にする、などの実験的工夫をすることにより、α-TiCl_3結晶のラマンスペクトルを得ることができた。このスペクトルはこれまで報告されてきたスペクトルとは異なったものであったが、実験条件を考慮すると本研究のスペクトルが最も信頼性があると考えられる。この結果は、振動分光を用いた触媒表面の研究にとって重要な基礎データとなる。
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