Si(111)-(7x7)及びInP(110)-(1xl)表面で発生する光誘起構造変化及び原子脱離の特徴及び効率と表面基礎物性との相関を、(1)表面における微視的結合形態(2)発生する電子励起状態の性質(3)原子過程に至るダイナミクスの3つの観点より明らかにすることにより、現象の機構解明をおこなった。 Si(111)表面を低い励起強度のパルスレーザー光により励起すると、電子的過程により表面adatomサイトに空格子点(vacancy)が生成されると共に、Si原子脱離が生じることを明らかにした。さらに、生成されたvacancyの空間分布を統計的に解析し、結合切断の効率が強いサイト依存性を示すことがわかった。この結合切断効率は照射dose量に対して一定であり、サイト選択性がパルスの積算効果でなく、単一パルス内での性質であることをした。さらに、励起光の波長、強度及びパルス幅に対する脱離Si原子の収量及び脱離エネルギー分布を測定し、収量が1)2.0eVで共鳴的に増大すること、2)励起強度に対して非線形に増大すること、また、3)脱離エネルギー分布が励起条件に依存しないこと、4)脱離エネルギーが励起光の光子エネルギーに比べて2桁程度小さいことを明らかにした。これらの結果を詳しく解析した結果、この表面での電子的結合切断が、(1)表面電子励起状態の(2)表面アドアトムサイトへの(3)非線形局在に起因することを明らかにした。さらに、この現象の非線形が2正孔局在機構によ●また、脱離エネルギー分布の特徴が、フォノンキックによる脱離モデルによりうまく説明できることを示した。 InP(110)表面では、表面電子状態間の励起により、電子的過程により、表面Pサイトに選択的にvacancyが生成されること、また、照射dose量の増大と共にIn-Pチェーン方向に伸びたvacancy stringが効率的に生成されることを明らかにした。生成されたvacancyの数密度は、dose量の増大とともに初め線形に増大し、数%程度の濃度で飽和した。完全格子サイト数がほとんど変化していないことから、結合切断効率が照射doseとともに急激に減少していると結論できる。線形領域での傾きより評価したvacancy生成効率(完全格子サイトにおける結合切断効率)は、励起強度に対して強い非線形を示し、この表面の電子的結合切断に非線形な過程が含まれていることが明らかとなった。さらに、この非線形の振舞いを詳しく解析し、(1)非線形性が2正孔局在モデルでうまく説明できること、(2)生成効率の飽和及び方向性を持ったvacancy stringsの効率的生成が、光学遷移により生成されたIn-Pチェーン方向に広がった2次元自由正孔のvacancyサイトへの効果的捕獲により説明できることが分かった。 本研究により、半導体表面に表面電子励起状態が発生すると、電子励起状態のサイト選択的・非線形局在により局所的結合切断が生じることが明らかとなった。また、両表面における現象の比較により、構造変化の形態及び結合切断の効率が表面の構造的・電子的性質の特徴に強く依存することが明らかとなった。
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