研究概要 |
モリブデン酸化物には一般的に、規則的に配列した酸素欠陥から来る空洞によって仕切られた低次元結晶構造を呈し、これを反映して特有の低次元物性を示すものが多い。本研究はこの空洞に磁性イオンや多価イオンを挿入し、広く電気伝導機構、磁気構造、電子バンド構造の次元性や相互作用の到達距離を制御出来る化合物を得ることを目的とした。また空洞への自由な電荷の出入りを可とする化合物を探索し、クリーンな電池作製への応用も意図した。 第1点の物性制御を目的とした化合物探索は多くの実りをえた。具体的には準1次元、および準2次元磁性を示すVOMoO_4、(V_<0.56>,Mo_<0.44>)_2O_5の2種の新しい結晶を育成、磁気、電気、光学測定を総合的に行って結晶構造の低次元性がもたらす量子状態の不安定性と内部磁場揺らぎ、それがもたらす散乱機構の電気伝導に及ぼす効果について研究成果をあげた。一方6価のテルルを導入した準2次元電気伝導体結晶を発見した。これは多結晶体としてはすでに知られているビスマス、またはアンチモン導入型の結晶と同型で、M_4Mo_<20>O_<62>の化学式で表されるが、それらと異なりp型半導体である。さらに後の2者も、単結晶育成の方策が立った。導入金属の種類も鉛まで広げ、混合することでキャリアの符号と易動度の制御を計画しているが未完成である。他に既知のMo_4O_<11>やK_<0.3>MoO_3においても比熱と電気伝導度の温度依存性の規則について新しい情報を付け加えた。 第2点の応用面であるが、1部は上記の後半部分と重複する。化合物M_4Mo_<20>O_<62>は、層状のモリブデン酸化物中に配列した6角柱状の空洞を持つ骨格中に電荷供給元素Mを取り込んだ化合物である。骨格はMが無くても安定なので、Mを電荷供給効率を考慮して制御すること、電気陰性度を考慮した組み合わせ電極の選択、が今後の課題である。一方VOMoO_4についてもアルカリ金属のカリウムを挿入する試みが行われ、フラックス法による合金化は成功した。その後の評価一切は今後の課題として残される。
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