研究課題の(1)量子閉じ込めを受けた励起子状態から、高い励起状態への過渡吸収スペクトルの解析 に関しては、この目的のために球状の量子ドットを想定し、全角運動量のS、およびP状態の固有状態を計算するスキームを完成し、数値計算を実行した。オイラー角表示により変数分離を行い、クーロン引力の効果をあらかじめ取り込んだcorrelated basis functionによる展開を用いることで、高い精度の計算が可能になった。エネルギースキームの計算とともに、最低S状態からP状態への過渡光吸収スペクトルの計算も行った。その結果、サイズの大きな励起子閉じ込め領域では、相対運動の1s状態から2p状態への遷移が主ピークを作り、np(n>2)状態への遷移が高エネルギー側への裾を作る。ドットサイズが有効ボ-ア半径と同程度以下の個別閉じ込め領域になると、電子と正孔の独立な1s→1p遷移へと描像が変化し、その結果、吸収バンドは2本に分裂する。これらの計算結果は、東北大学工学部応用物理学科で最近行われた、NaCl結晶中CuCl微結晶の赤外過渡吸収スペクトルの微粒子サイズに依存した変化をよく再現することが確かめられた。 研究課題の(2)多数個の量子ドット集合体とフォトンとの共鳴相互作用 については、2個の同一原子からなる2分子モデルを用いて、共鳴散乱効果の計算を行った。可視域の光散乱だけでなく、軟X線を用いた内殻からの共鳴励起の実験に着目し、二つの原子の内殻正孔の間のコヒーレンスとその部分的破れが、発光スペクトルにどのように反映されるか、簡単な確率過程モデルにより計算を行った。共鳴励起により、二つの原子にまたがった重ね合わせの状態として作られた内殻正孔が、位相の破れとともに、どちらかの原子に局在してゆくようすが、発光スペクトルの変化として観測される。量子ドット系に対する可視域での共鳴光散乱と、軟X線領域での内殻励起共鳴光散乱との間には、「共鳴Bragg散乱」としての共通性がある。すなわち、物質系の励起状態のコヒーレンスが、散乱(放出)光の空間的コヒーレンスとして、どのように観測されるか、という問題である。可視域の共鳴散乱に対しても、ランダムに分布する2準位系のモデルにより、数値計算を実行した。波長がドット間の平均距離と同程度の場合、空間的共鳴条件(Bragg散乱)と時間的共鳴条件(共鳴Rayleigh散乱)の絡み合いによって、2種類の共鳴増大ピークが現われることを見い出した。
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