本研究課題の最終年度の本年度は、まず平成8、9年度に開発したInglesfiledのエムベッディング法とノルム保存擬ポテンシャルを組み合わせた半無限結晶電子状態の計算コードの効率・精度を改良した。半無限下地のエムベッディングポテンシャルを生成する際、以前はシュレディンガー方程式の積分に際し表面垂直方向には三角関数を基底関数として用いた。しかし、これでは急激に発散・減衰する波動関数の成分を表現するのに非常に多くの基底関数を必要とした。そこで一電子ポテンシャルが局所的領域では、広瀬・塚田のリカージョン・トランスファー行列法を用いてシュレディンガー方程式を数値的に積分するよう改めた(一電子ポテンシャルが非局所的な原子の内殻ではこの手法は使えない)。同様にエムベッディングポテンシャルを求める際、従来は適当な入力ポテンシャルを仮定して、シュレディンガー方程式を表面垂直方向に一周期分積分し出力のポテンシャルを計算し、両者が一致するまで計算を繰返した。新しい方法では、まず2N個のシュレディンガー方程式の独立解をすべて計算し(Nは表面平行方向の波動関数の展開に用いる逆格了ベクトルの個数)、次に固有値方程式を解いて表面内部に向かって減衰・伝播するN個の独立解を求め、ここからエムベッディングポテンシャルを抽出するように変更した。次に遷移金属表面を計算する準備段階として、球形マフィンティンポテンシャル近似の範囲内で補強平面波(APW)基底を用いた3次元結晶の電子状態計算コードを作成した。この際、線形化APW基底と、波動関数の微分が原子球表面で不連続なSlaterのAPW基底の両者を取扱えるようにし、平面波のカットオフに関するエネルギーバンドの収束速度を比較した。一電子エネルギーを初めから指定できるエムベッディング法の表面の電子状態計算ではSlaterのAPW基底が有用であることがわかった。
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