本研究では密度汎関数法の範囲の第一原理計算により、半無限結晶表面の基底状態での電子状態を自己無撞着に決定する計算プログラムを開発した。この際、表面領域を3次元固体結晶の表面垂直方向に局在した欠陥として扱い、表面領域の一電子グリーン関数をInglesfieldのエムベッディング法により計算した。現在の計算コードはイオン内殻をノルム保存型擬ポテンシャルで置き換え、表面グリーン関数を平面波的な基底関数で展開する。この際、半無限下地と表面領域との境界の真のエムベッディング面は、イオン内殻の非局所ポテンシャル領域を避けるため複雑に湾曲するが、この曲面を全く定義することなしに等価な平面で置き換える新方法を考えた。またグリーン関数だけでなく、固体内部から入射し表面で散乱される電子の波動関数をも計算できるようにした。現在、酸素等の局在2p軌道や遷移金属を扱うため、補強平面波(APW)基底、線形化APW基底関数を用いた3次元周期系の電子状態計算プログラムを開発・テスト中である。これを用いて遷移金属半無限下地のエムベディングポテンシャルが計算される。通常の薄膜近似の表面電子状態では取扱うことのできない具体的問題として、金属中の伝導電子の固体表面での弾性散乱に起因する表面電気抵抗を調べた。この際、線形応答理論により任意の半無限結晶表面に適用できる表面抵抗の一般的表式を導いた。清浄Al表面で数値計算した結果、古典的には最も平坦な(111)面の電気抵抗が(001)面の抵抗より約6倍も大きいという一見意外な結果を見出した。この原因は、面心立法格子では(111)面に関して鏡映対称性がないため、表面で散乱された伝導電子は鏡面反射されることができず必ず面内の速度成分を変えるためであると判明した。
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