1.散乱の効果をボルツマン輸送方程式の形で取り入れて計算するプログラムを開発し、具体的な半導体量子細線の電子状態に適用して、非平衡電流分布の計算を行った。散乱項として、不純物による弾性散乱、及び音響フォノンによる非弾性散乱を導入した。ところが、これらの散乱項のみでは、磁場による中心座標のドリフトを打ち消して定常状態を維持するだけの散乱強度が得られないことが判明した。つまり、各状態の緩和時間が無限大となってしまうことがわかった。ボルツマン輸送方程式での記述が妥当であるのかどうかは未だに不明ではあるが、定性的な挙動はうまく表現していると思われるので、今後はシュブニコフードハース振動の原因となるランダウ準位の縮退状態内の散乱過程をより詳細に検討して導入して計算を行い、量子ホール効果状態におけるバルク電流とエッジ電流との混成の問題の解明を続けていく計画である。 2.極低温(250mk)で細線幅の広い場合(2μm)の強磁場下(3.1〜11.4T)での半導体量子細線の電子状態をHartree近似により計算した。強磁場下での電子状態は、デルタ関数的なランダウ準位がフェルミエネルギーにべったりと張り付くような特殊な状況となるので、セルフコンシステントな解を求める収束計算は当初の予想をはるかに越える大規模なものとなり、高速ワークステーションを1年半の間、止めることなく計算し続ける必要があった。最終的な計算結果を詳細に解析した結果、従来まで考えられてきたChklovskiiらの解析的なモデルの結果、及びLierらのThomas-Fermi近似の結果との相違点を明らかにすることができた。
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