本研究は超伝導体ギャップのトンネル効果による測定に関して、その再現性を確立することを目的として行われた。超伝導体においては接合のサイズ(基準は位相コヒーレンス長)に依存してアンドレーエフ反射の様子が異なってくる。これによってexcess currentやsubharmonic gap structureも生じてくる。本研究では接合のサイズを変化させ、更に検出シグナルの位相に関したベクトル不平衡を完全に無くす事を試みた。このため筆者は2位相出力発振器を使い、不要な不平衡電圧の完全な除去と、位相変化がどこでどのように起きているかの検出とその補償を行うことによって本問題の解決を試みた。トンネル効果測定装置としては筆者によって開発された表面の清浄化と針圧による圧力の回避を目的とした回路を自動化した装置を使用し、試料としては筆者によって作製された超伝導体イットリウムヘキサボライド単結晶を主とした。バイアス電圧の関数としての微分抵抗を極低温にて測定し、その再現性を追求し、また必要に応じて温度変化、及び外部磁場変化を測定した。2位相出力発振器は互いに位を0.1度に360度変化でき、独立に位相および出力を変えられる。これまでは零点調整は精密可変抵抗減衰器のみによって行われていたため、場合によって系の位相を制御できず、超伝導体では特に大きくずれた状態での測定を余儀なくされ、不安定な再現性の悪いシグナルあるいは幽霊シグナル出現の原因となっていた。本研究により、完全なバランスをとることができ、試料に由来するものと、回路系に由来するものとを分けて位相変化の補償を行うことに目途をつけることができた。
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