本研究では、MBE法により作成された楔型Fe超薄膜(最大膜厚8.9A)中に熱的に励起されたスピン波によるレーザー光の非弾性散乱を、ブリルアン散乱を用いて測定した。測定は全て室温で行なった。 1)膜厚2.6A(平均膜厚1.8原子層)においてもシャープなスピン波ピークが観測されたことから、膜厚2.6Aにおいても強磁性状態にあることが証明された。、また、スピン波振動数の磁場変化に対する膜厚依存性の測定から、表面磁気異方性定数を含む磁気定数の膜厚依存性を決定した。その結果、a)容易磁化方向が、表面垂直磁気異方性と形状磁気方性の競合のため、膜厚減少と共に膜厚3A付近で面内磁化から垂直磁化に移行すること、b)膜厚2.6Aにおいてもバルク磁化の約9割程度の値が保持されていることが分かった。 2)超薄膜中の電子は、膜厚方向の束縛条件のため量子井戸準位を形成する。この量子井戸効果は、磁気光学スペクトル中に一種の量子振動として観測される。スピン波ブリルアン散乱強度は磁気光学係数で書けるため、スピン波散乱強度にも量子振動効果が現われることが期待される。励起レーザー光エネルギー2.54eV(波長4880A)に対し、散乱強度の顕著な膜厚依存性が観測された膜厚5A付近(n=2の量子準位に対応)で、励起レーザー光のエネルギーと膜厚を変えてスピン波散乱を測定することにより、量子振動を観測することを試みた。本研究で使用したArレーザーでは2.54eVと2.41eVが使用可能であるが、エネルギー差が0.1eVと小さいため、測定精度内で結果に有為な差は認められなかった。この結果はブリルアン散乱による量子井戸効果の検出可能性を否定するものではなく、今後はn=3の量子準位が関与すると期待される膜厚10A付近の試料を用意して、更に測定を進めて行くことを考えている。
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