アモルファス・タングステン(a-W)超薄膜は最低1.2mmの厚さでも超伝導を誘発し、金属系2次元不均質超伝導体の特性を研究する上でのモデル系として大変有益な物質である。本件旧ではa-W超薄膜とSi膜を組み合わせ、ヘテロ構造Si/W/Si、多層構造Si/W/Si…W/Siの試料を作成し、その2次元超伝導体の特性について研究を行った。 Disorder誘発型超伝導・絶縁体転移の観測 ヘテロ構造試料でW膜の厚さを1nm〜10nm変化させた試料の面抵抗の温度依存性を0.1K〜5Kの温度領域で測定した。W膜厚が1.2nm以上で超伝導を示し、1nm以下では超伝導を消失し、面抵抗の温度依存性がexp(T^<1/3>)則に従う2次元variable range hopping伝導を示した。超伝導臨界温度T_<cO>の常伝導面抵抗依存性から超伝導が消失する面抵抗を推測すると、理論的に計算される超伝導・絶縁体転移を起すユニバーサルな量子面抵抗値6.45KΩに近い値を示し、典型的なdisorder誘発型超伝導・絶縁体転移であることが確認された。 Kostelize-Thoughless(KT)転移と超伝導層間結合の関係 KT転移とは臨界温度近傍で超伝導秩序関数の位相の熱的に揺らぎにより、Vortex-Antivortex対が誘起される相転移である。Si/W多層膜のゼロ磁場での電流電圧特性を詳細にしらべ、Si膜厚変化によりW超伝導層間結合状態とKT転移の関係、積層数の変化とKT転移に伴うVortex loop excitationの関係を明らかにした。この知見は高温超伝導体で起きるKT転移に関する特性の研究に有益な情報を与えた。 磁場誘発型超伝導・絶縁体転移の観測 ヘテロ構造Si/W/Siで超伝導を示す1.2〜3nmのW膜厚の試料について、磁場印加による超伝導・絶縁体転移を観測し、その転移が超伝導秩序変数の位相のゆらぎに原因したVortex glass/Bose glass転移であるかどうかをFisherの提案した理論的考察によるスケーリング則を用いて解析を行った。その結果、転移を起す磁場Bc近傍の臨界領域ではスケーリング則に従い、より高磁場領域では面抵抗の温度依存が弱局在効果によるInT的振る舞いを示し、Bose Glass相からFermi Glass相への転移の可能性を示唆した。
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