研究概要 |
アルカリ金属をドープしたフラーレンを含む分子性導体では,伝導電子は狭いバンド幅を持ち、電子間には,直接のクーロン斥力U_<ee>とフォノンを媒介とした引力-U_<ph>が競合しながら働く.ハバ-ド・ホルスタイン(HH)模型はこの特徴をよく表わす.本研究では,2及び4サイトHH模型の厳密対角化,逆断熱極限からの展開によるHH模型に対する有効ハミルトニアンH_<eff>の導出とグリーン関数法を駆使したH_<eff>の解析等を行い,この模型における超伝導の本質を理論的に調べた. 従来,HH模型では,ハーフフィルドの電子密度では電荷密度波(CDW)かスピン密度波(SDW)が起こり,超伝導は決して起こらないと考えられてきたが,本研究では,CDWからSDWへの移行がおこるU_<ee>【reverse curved arrow】U_<ph>の条件下では,殆ど自由なポーラロンの対によるコヒーレンス長の極めて短い超伝導が出現することを見出した.また,ハーフフィルドからズレた場合でも,バイポーラロンのボ-ズ凝縮という従来のシナリオでは高い転移温度T_cは得られず,むしろ,殆ど自由なポーラロン対の超伝導を主として考えるべきであることが分かった. これらの結論は,具体的にフラーレン超伝導体に適用され,成功をおさめた.すなわち,フラーレン超伝導体のT_cに関する実験のうち,(1)^<12>C_<60>を約半分,^<13>C_<60>に置換した場合のT_cの奇妙な同位体効果,(2)電子ド-ピング量をハーフフィルドから増減した時のT_cの急激な減少,の2つは単純なBCS理論のフォノン機構では決して理解できないが,本研究に則って超伝導機構を考えると,これらの実験を容易に再現できることが示された. このように,HH模型というある特定のモデルに対する理論であるが,BCS理論やエリアシュバーグ理論を超える超伝導理論が形成されたが,より一般的でバ-テックス補正が正しく入った強結合超伝導理論の構成は今後の課題として残った.
|