研究概要 |
複雑なスピン系の性質や相転移の出現機構の理解を深めることを目的として、観測の時空尺度の異なる測定手段を相補的に用いて研究を行なった。得られた成果のうち主なものを以下に箇条書にまとめる。 1.スピングラス(SG)とクラスターグラス(CG)の比較:(1)磁場中冷却(FC)磁化の長時間緩和の測定から、CGでのFC状態はSGとは異なり熱平衡状態ではなく、時々刻々安定状態へ向けて緩和していくことが明らかになった。(2)μSRの時間スペクトルを測定した。SG系ではSG凍結温度よりやや高温からミュー粒子の静止位置に局所場が現われるのに対して、CG系ではCG凍結温度の2倍以上高温から局所場が現われて温度の低下と共に徐々に大きくなっていく。また、緩和率の温度変化から、凍結温度近傍の臨界領域がCG系の場合SG系の数倍広い事が判明した。この現象は凍結の機構を反映したものであり、個々のスピン間の競合(SG)によるかクラスター間の競合(CG)によるかが主な原因であると考えている。(3)常磁性(Para)-反強磁性(AF)転移をする濃度領域の試料について、メスバウアスペクトルには,ネ-ル点より高温から磁気相互作用の影響が観測されるようになる。この現象はCG系おいて著しく、磁化測定でネ-ル点に対応する異常は明確に観測されるものの、通常の反強磁性体におけるPara-AF転移とは異なることが明らかになった。2.AT線:AT線は観測時間が速くなると高磁場側で高温側にずれることが知られているが、メウバウア分光、μSRでは磁場依存性がないことが判明した。観測の時空尺度との関わりで検討した。3.ランダム磁場効果を示す系の中性子散乱:これまでに、磁化測定からH-T面上の多重臨界点近傍に新しい磁気相の存在を示唆する結果を得ていたが、今回、中性子散乱測定により、この相では、スピンが傾いた状態で、かつ、長距離秩序が消失している可能性が大きいことを明らかにした。
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