本研究は、準一次元電子系の諸物性を理論的に研究することを目的としている。本年度は、主に以下の4つのテーマに関する研究を行った。 1.非線形シグマ模型を用いたスピン梯子の解析 最近、スピンの大きさが交互に変化するスピン鎖や、スピン梯子が注目されている。ここでは、これらの系を系統的に扱うため、スピンが混合した梯子模型を提案し、その性質を非線形シグマ模型の方法を用いて調べた。特に、スピンギャップの生成が系のトポロジーとどのように関わっているかを示した。 2.2次元量子スピン系の量子相転移 準1次元スピン系に2次元性を導入して、磁気秩序状態への量子相転移を調べることは、実験の解析を行う上でも重要である。ここでは、非線形シグマ模型と修正スピン波理論を用いて、梯子構造、プラケット構造、混合スピン構造をもつ2次元量子スピン系を解析した。より定量的な議論を行うため、クラスター展開法を用いて基底状態の相図を決定した。 3.モット絶縁体の絶縁破壊 モット絶縁体の絶縁破壊に関する理論模型を提案し、金属絶縁体転移について調べた。1次元ハバード模型に外界との非対称トンネルの効果を導入することで粒子が一方向に流れる状況を考慮した。非対称トンネル効果が大きくなると、絶縁体から金属への転移が起こることが分かった。これは非平衡系における新しいタイプの量子相転移である。 4.可積分系でのドルーデ重み 強相関電子系の有限温度におけるドルーデ重みを正確に計算すること一般に難しい。こでは、1次元ハバード模型の厳密解を用いて、モット絶縁相におけるドルーデ重みの温度変化を求めた。ここで得られた振る舞いの定性的な部分は、1次元強相関系における輸送現象の研究に役立つものと考えている。
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