研究概要 |
NaCl構造を持つ強磁性体US,USe,UTeに対し、Uの5f,6d,7s軌道、S,Se,Teのs,p軌道を考慮し、電子間相互作用としてU5f軌道内の多重極相互作用、5fスピン・軌跡相互作用を考慮した拡張ハバ-ド模型をハートレー・フォック近似で取り扱うことにより、Uの5f軌道のスピン・軌道磁気モーメントを計算した。電子の原子間移行積分は、常磁性状態での密度汎関数法局所近似(LDAと略す)に基づく第一原理計算により得られたバンド構造をもとに決め、多重極相互作用を表すF^0以外のスレーター積分は高エネルギー分光の結果をもとに決めた。F^0を5f全磁気モーメントの実験と合うように決めた計算の結果、US,USe,UTeそれぞれに対し、スピン・軌道磁気モーメントは互いに反平行であり、後者は前者の2倍程度で、実験とよく対応していることを示した。USに対しては、得られた固有値、固有関数をもとに、Fermiの黄金則を用いて、U M_<4,5>X線吸収磁気円二色性の実験が説明できることを示した。 我々は、3d遷移金属系で大きな軌道磁気モーメントを持つことで知られている第2種反強磁性体FeO,CoOに対しても、Fe,Coの3d軌道と酸素の2p軌道を考慮した同様な計算を行った。CoOの関しては第2種構造の範囲内で種々の多重スピン密度波構造の相対的安定性を調べた。その結果、バンド効果を考慮しても、以前から1イオン模型で指摘されているように、Fe,Coの軌道磁気モーメントが1μ_B近い値を取り得ることを示した。 LDAに基づく現在の第一原理計算には、軌道磁気モーメントをセルフコシステントに計算する理論的枠組みは存在せず、それを摂動論的にしか取り扱えないため、それを過小評価する傾向があることが知られている。これらの計算結果は、我々の方法が大きい軌道磁気モーメントが存在する系の磁性を議論する上で、一つの有力な方法であることを示している。
|