我々は1994年に、ルテニウム酸化物Sr_2RuO_4が、銅酸化物高温超伝導体以外では初めての「層状ペロブスカイト構造」の超伝導体であることを世界に先駆けて発見した(臨界温度はT_c=1.4K)。この超伝導体と同一の2次元構造をもつ銅酸化物はT_c=40Kの超伝導体であるが、その関連物質としては銅-酸素面が2層ずつ対になった擬2次元構造の物質ではT_c=60Kとなることが知られている。本研究では、後者の銅酸化物と基本的に同一の構造をもつ物質として我々が新たに開発した擬2次元構造の新物質系、Sr_<3-x>Ca_xRu_2O_yのスピン相関と超伝導性を明らかにする目的で、物質合成、構造解析、磁化率・電気抵抗率・比熱などの測定を行った。 その結果、Caの含有量x=1.2を境に、それより高濃度側では層間隔が顕著に短くなる結晶構造の変化を見いだした。この変化を理解するために、本補助金で購入した熱分析システムを用いて、Sr_<3-x>Ca_xRu_2O_yをアルゴン・水素混合ガス中で分解させたときの質量変化を精密測定することによって、試料に含まれる酸素量yを決定した。その結果、Caの含有量に依らずyは7.0であり、x=1.2を境に見られる構造の変化は、酸素含有量の変化を伴うものでないことが明らかになった。さらに電子線回折による構造解析から、RuO_6八面体は層内で回転した状態で凍結していることが明らかになり、この回転とRuO_6八面体の層面からの傾斜という2種類の歪みによってx=1.2を境にした構造変化が説明できることがわかった。また、この構造変化に伴って、Ruスピン間の面内の相互作用が反強磁性的なものから強磁性的なものへと変化し、面間の相互作用はこれとは逆にCa高濃度側で反強磁性的となることも明らかにできた。新たな超伝導相はまだこの系では見つけていないが、磁気転移温度が3K程度まで抑制されるx=1.0付近では、その磁性が遍歴電子系に対するいわゆる「弱い強磁性」の理論を用いて説明できることを示すことができた。
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