従来、金属に対しては伝導電子の平均自由行程は短いもの(μmのオーダー)と思われ、平均自由行程が伝導系の寸法に比べて十分長い領域、すなわちバリスティック領域における輸送現象はほとんど考慮されていなかった。一方、我々の研究グループによるA1の精製過程で開発された、バルク残留抵抗比(R_<300K>/R_<4.2K>)_b)が10万を超える高純度のA1単結晶においては、伝導電子の平均自由行程は極低温で数mmに達し、マクロな試料寸法でバリスティック領域を実現した。このように超高純度の単結晶試料において、我々は、バルク残留抵抗率の異方性(結晶方位に対する依存性)、十字型試料における負抵抗、非線形な電流-電圧特性、サイズ効果の異方性など、従来の電気伝導理論では予測できない新しい輸送現象を見出してきた。 本研究ではさらに、高純度のA1単結晶試料を用い、磁場は[001]方向に4テスラまで印加した。測定温度は4.2Kである。その結果、バルク残留抵抗比が約10万の試料(平均自由行程約3mm)で、電流方向が[100]のものにおいて、横磁気抵抗のブレイクダウン振動の山と谷が3周期毎にステップ状に変化する新しい結果を得た。また、その振幅は一つの周期内では単調に増加し、周期Δ(1/B)には、2.15×10^<-2>T^<-1>を中心として6周期毎に急激な変化が見られた。しかし、これらの現象は、対照として用いた電流方向が[100]の試料や、電流方向が[100]であってもより低純度の試料では観測されず、従来から知られている単調に増加するブレイクダウン振動が見られるのみであった。電流方向が[100]の高純度試料で観測された特異な現象は、平均自由行程が十分な長さに達し、すなわちバリスティック領域に入り、第3ブリルアン帯のフェルミ面上にあるβ軌道を経由する電子に対して、新しい量子干渉効果が顕著になったことによって生じたものと考えられる。
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