研究概要 |
ボロカ-バイド系の超伝導体は最高25Kという比較的高い転移温度をもつ新しいタイプのものとして,1994年の発見以来その超伝導発現機構を明らかにすべく様々な研究が行われてきた.構造的に銅酸化物高温超伝導体と似ているため,類似の機構の可能性が高いとして注目されている.特に,超伝導状態の対称性が従来型のs波的であるかどうかが論争の的になっている. 本研究では^<13>CのNMRによってこの点を明らかにするのが主な目的である.今年度はYNi_2B_2Cを対象に選んだ.これまでに,ホウ素のNMRによる研究が行われきたが,Niのスピン揺らぎが何らかの作用をしており,s波ではないとの報告がある一方で,特別に異常ではないとの報告もなされている.^<13>C核はスピンが1/2であるため,電気四重極モーメントがなく,磁気的相互作用を純粋に調べることが出来るという利点があるので,もっと明確な結論を導き出せるものと期待している.以下に,これまでの研究結果をまとめる. 当初は^<13>Cの自然存在率1%のままの試料について測定を行っていたが,信号対雑音比が低くて労力と時間が大変であるばかりでなく,得られるデータの信頼度も低かった.その後,50%にenrichした試料を作製し,現在はそれについての精力的測定が進行中である. 1.常伝導状態 1.2Tの磁場下でのT_c=12.1Kから300Kまでの間で,ナイトシフトKおよびT_1の温度変化を調べた.スペクトルはT_1の長い成分と短い成分からなり,強度比は1:13であり,後述のようにT_1の短い成分の方が本質的な意味を持つと考えられる.コリハンの関係K^2T_1 T/S=1.5が全温度領域で成り立ち,1.5というenhancementは貴金属などと同程度であり,特別に電子間相互作用が大きい系といえず,その意味では極めてnormalな金属であると言える. 2.超伝導状態 一番の問題はスピン-格子緩和率にcoherence peakが観測されるかどうかである.まだ予備的実験の段階であるが,弱いpeakが見えた.また,温度依存性もBCSのs波超伝導状態と考えて矛盾がない結果が得られた.現在,さらに詳しい実験を行っている.今後は不純物効果や他のボロカ-バイトも調べる予定である.
|