本研究の対象は、「巨視的に明晰に区別可能な二つの状態の線形結合」の関与する現象である。巨視的なレヴェルにおいても量子力学が成立しているかどうかを″実証的に″検証するという目標に向けての理論研究である。通常、巨視的現象と言えば、関与する作用がプランク定数に比べて圧倒的に大きく、そのため量子効果は指数函数的に小さくて検出不可能である。これに対し巨視的量子現象とは、「関与する自由度の個数が多い」に拘わらず、関与する作用はプランク定数と同程度の大きさになっている現象であり、「関与する自由度の個数」が巨視性の目安となる。この様な現象を検証するための基本的考え方を整理した(第一論文)。現象の記述に際しては、集団自由度の選定が決定的に重要である。具体例の第一として、量子液体に於ける量子核形成を採り上げ、核の半径を集団自由度に選定し得る可能性を吟味し、それに基づいて核形成率の暫定的評価を行い、標準的現象論の限界を指摘した(第二論文)。第二例として、強磁性体磁壁が右ねじ又は左ねじの掌性を持ち得ることに着目し、掌性を表す集団自由度の構成法を提案し、右ねじ状態と左ねじ状態の線形結合(Schroedingerの猫の磁石版)が実現され得る可能性及び両者間の量子コヒーレンス振動の周期を定量的に論じた(第三論文)。
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