スピングラスの転移温度T_c以上の'グリフィス相'での短距離秩序やT_c以下のスピングラス相での長距離秩序は階層的に構成されている。本研究は、そのような秩序に伴う固有な階層的緩和機構を、主にモンテカルロ法の数値シミュレーションで解明する研究を進め、以下の成果を得た。 まず、T_c以上での緩和について3次元イジングスピングラス(EA)模型の'グリフィス相'における特異な緩和現象を、相関関数から緩和時間分布を評価する最大エントロピー法を用いて詳しく調べ、臨界緩和とクラスター緩和の二つの機構が絡み合って働いていることを高い精度で検証した。 スピングラスを高温からT_c以下のある温度Tに急冷すると、その温度Tの平衡状態に達するまでにきわめて長い時間を要する。エイジング現象とよばれるこの現象を有限サイズのSK模型について解析した結果、多数の準安定状態が存在する位相空間において、系が高いエネルギーの準安定状態から熱活性化過程で順次より低いエネルギーの準安定状態へ、それぞれの時間スケールに対応した位相空間のある限られた領域で準平衡を保ちながら緩和していく機構を明らかにし、これを"Growth of Quasi-Equilibrium Domains"のシナリオとして提起した。また、3次元ガウス型EA模型におけるエイジング現象に関して、急冷後のエネルギー緩和やクローン相関関数の解析から、実空間における温度Tの平衡ドメインが時間に対してべき乗則に従って成長することを検証した。 さらに、関連する問題として、SK模型のリエントラント転移に伴う非線形磁化率の異常、サイトランダム模型における転移、および、神経回路網に対するHopfield模型のTAP自由エネルギーなどに関して新しい知見が得られた。
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