炭素系物質は、近年、各種フラーレンおよびその固体相、ナノチューブ相など、無限ともいえる様々なネットワーク構造を取り得ることが明らかにされ、新物質・新素材として、さらには、新しい物性の舞台として、非常に注目が集まっている。これら多様な、しかも、単位胞の大きな系を系統的に研究する現実的手法として、定量的タイトバインディング法が、再び注目されている。本プロジェクトでは、フラーレンがイオン化するときのクーロン反発と、イオン結晶としての長距離静電相互作用とを加えることにより、アルカリドープフラーレン固体系に用いることのできるタイトバインディング法の開発を行なってきている。今年度は、同手法のK_1C_<60>ポリマー相への適用を行ない、電荷密度波状態(CDW状態)の安定度の研究を展開した。さらに、長距離静電相互作用のより精密な計算により、アルカリイオンのオフセンター位置への変位が、CDW状態のさらなる安定化をもたらす可能性が高いことを発見した。他方、タイトバインディング法による計算にスピン分極の自由度を持たせることにより、スピン密度波状態を議論できるモデルへの拡張可能性を探求した。これは、今後の重要な発展方向となると考えられる。
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