研究概要 |
本研究では不規則さを内在する量子力学系(量子カオス系)の応答関数の統計的性質を調べる事を目的とした。 本年度の研究では特に,応答関数としてBerryの位相に関して調べた。Berryの位相とは量子系のハミルトニアンに含まれるパラメーターの断熱的変化に伴い断熱エネルギー固有関数に現われる幾何学的位相であり,外界からの摂動に対する波動関数の応に答関係する量である。また,Berryの位相は断熱パラメーター空間内でのエネルギー準位の偶然縮退点から湧きだした仮想的な“磁場"による磁束とみなす事ができる。一方,エネルギー準位の偶然縮退は系の非可積分性と結び付いている為,Berryの位相とカオス的振舞いとの相関が期待される。 本研究では,この予想を数値的に確かめるためにパラメーターを含んだ2自由度のモデルハミルトニアンを用い,古典軌道および上述の仮想的“磁場"をいろいろなパラメーター値について計算した。古典軌道の振舞いはPoincareの横断面に現われるトーラス構造により判断している。その結果,この“磁場"の値は,古典軌道が規則的に振る舞うエネルギー領域にあるエネルギー準位に対してはほぼ0であるのに対し、古典軌道がカオス的に振る舞う領域の準位に対しては変動しながらもかなりの値を持つ事がわかり,Berryの位相とカオス的振舞いの相関を裏付けた。以上の結果については1996年度日本物理学会・応用物理学会中国四国支部例会で発表した。 上述の結果は未だ定性的である。今後は数値計算としてはエネルギー軸やパラメター軸についてこの仮想的“地場"の平均や分散などの統計的量が必要である。また系のハミルトニアンが乱雑行列で表されるとした場合に対応する量を計算し比較する事により,Berryの位相の統計的性質がエネルギー準位統計と同じ様にカオス系において普遍的であるかどうかを調べる必要がある。
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