研究概要 |
本研究では不規則さを内在する量子力学系(量子カオス系)に摂動を加えた際の応答の統計的性質を調べることを目的としている。例えば外部からの摂動が電場であり応答が電流である場合の応答関数は電気伝導係数(コンダクタンス)となる。特に,電子間の相互作用が無視できる場合にはコンダクタンスは1電子の散乱行列によってあらわされ,従ってこの場合,コンダクタンスの統計的性質は散乱行列の統計的性質と等価である。 本年度の研究ではこのような不規則な多重散乱(いわゆる量子カオス散乱)の統計的性質の理解を目指した。量子カオス散乱の理論的取扱いには散乱領域を表すハミルトニアンや散乱行列を適当な統計性を持つランダム行列に置き換えて単純化する模型が使われている。しかし特に散乱領域の大きさが平均自由行程と同程度であるバリスティック領域に対しては,散乱領域内の滞在時間が短い軌道も散乱行列に寄与する為に,ランダム行列模型の適用範囲が明らかでない。 本年度の研究では特に,ランダム行列模型が量子カオス散乱の記述においてどの程度,妥当であるかを調べる為に準1次元格子模型を用いた数値シミュレーションとの比較を行った。乱数から作られたランダムポテンシャルを散乱領域に配置することにより系に不規則さを導入している。散乱領域と外界との有効的結合が弱くなればランダム行列模型との一致がよくなるという定性的結果を得たがこれは閉じた系に対してはランダム行列模型が良く適用されるということから自然に予測されることである。今後は,散乱過程の実験データからランダム行列模型によって記述できる普遍的な部分と個々の系に特徴的な(規則的な)部分を分離する処方を見つける必要がある。 以上の結果は日本物理学会1997年秋の分科会で発表した。
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