結晶粒界エネルギーを議論するにあたって粒界で織りなされる様々な格子パターンに内在する幾何学的階層性を数学的に浮き彫りにする新たな方法を案出したわけであるが、この方法に威力を内外に知らしめることが本申請の重要な目的の一つであった。幸運にも本研究は、今年7月米国ピッツバーグにて開催されるこの分野での最高の舞台での一つである「第3回結晶粒成長に関する国際会議」(Third Internatinal Conference on Grain Growth)での口頭発表に選ばれた。 さて、一連の研究を実施するにあたっては当初の計画と少々異なる方向に進むこととなった。これは本研究で得られた粒界エネルギーの結晶粒間のミスオリエンテーション角度依存性を2次元の結晶粒成長モデルに適用した際、定常成長過程に向かう緩和過程が「引き延ばされる」ことを見出したことに端を発す。「引き延ばされた」指数緩和過程はガラスでしばしば見られる緩和過程であり、結晶粒成長で見出された「引き延ばされた」指数緩和を理解するために、ガラスの緩和過程の問題に着手した。ガラスに見られるこのような「遅いダイナミクス」は、一般に様々な緩和プロセスが並列ではなく直列に階層性を成している結果であると理解されている。非常におもしろいことに結晶粒成長で見られた遅い緩和も結晶粒サイズという「メトリカル」な量の緩和過程と結晶粒の角数という「トポロジカル」な量の緩和過程との間に階層構造があることに起因している点を明かにした。しかるに、その機構の満足な理解にはまだまだこれからの研究に負うところが大きい、またごく最近、高温で平衡状態にある結晶粒界をクエンチすることによって低エネルギー粒界は結晶化をおこすが、高エネルギー粒界が′confined amorphous′状態になることが報告されている。結晶粒界でのガラス転移に付随する熱力学的及び動的性質をバルクのそれと比較研究していくことは今後の興味ある課題であるといえよう。
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