研究概要 |
高速イオンが薄膜を通過すると、薄膜内で電子を励起する。励起された電子は、カスケード的に他の電子を励起しながら拡散し、表面に到達した電子のうち、仕事関数を超えるエネルギーを持つ電子が表面から2次電子として放出される。入射イオン1個あたりの2次電子の放出量については従来、平均値のみが知られていたが、我々は新たに開発した測定法によりその個数分布まで測定することに今回成功した。 実験は、東大原子力センタータンデム加速器から供給される22.5MeVのC^<4+>,C^<5+>,C^<6+>ビームを用いた。このビームを10^<-10>Torr台の超高真空に実験チェンバーに導入した。試料は10μg/cm^2〜100μg/cm^2の膜厚の炭素薄膜を用いた。この表面の清浄化のため、加熱用セラミックヒーター製のド-ナツ型試料ホルダーを用い、約700℃で加熱処理した。さらにAuger電子分光により、表面に炭素以外の信号が観測されなくなることを観測している。本年度の実験により以下のような興味深い知見が得られた。 まず分布は常にポアソン分布より広い。次に、平均放出個数は薄膜の上流側の面(ビーム上流側)から放出される平均値については、入射イオンの電荷を大きくするとそれにつれて増大する。一方下流側の面から放出される個数には依存性がない。膜厚依存性については、厚くするにつれ上流側、下流側面両方とも増大しある膜厚以上になると一定値をとる。変化しなくなる膜厚は下流側の表面の方が厚い。さらに上流側と下流側の面の2次電子個数の相関については、正の相関つまり上流側に多いとき、下流側も多いという傾向が見られる。その度合いは膜厚が薄いときに最大で約30μg/cm^2程度で消える。
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