平成8年度は、申請書に記した所定の方針に基づき、主として以下の4点について実験が行われた。つまり:(1)いかに高性能なH原子線が得られるか?、(2)いかに高効率で回折H原子を検出する方法が得られるか?、(3)いかに迅速に多量なデータ処理が可能か?、(4)「いかに効率よくH原子線を回折散乱槽にトランスポートできるか?、である。この中、(1)〜(3)については概ね初期の目標を達成し得た。 まず単色H原子線は、直線偏光したYAGレーザー(GCR-11)出力の3倍波(266nm)で親分子HIを光解離して、そのとき生ずるH原子を用いた。解離には次の2つのチャンネル: HI(X^1Σ)→H(^2S_<1/2>)+I^★(^2P_<1/2>)(平行遷移):V_H=1.12×10^4m/s(0.35A) HI(X^1Σ)→H(^2S_<1/2>)+I(^2P_<3/2>)(垂直遷移):V_H=1.75×10^4m/s(0.23A) があり、各チャンネルに応じて2種類の極めて単色性がよく(<1%)、しかも十分な強度のH原子線が得られた。次に回折H原子の高感度検出を目的として、波長364.5nm近傍の色素レーザー光を基本波としてKr-Arセルに通し、セル内における非線形効果でLyman-α線を中心とする可変波長のVUV光を発生させるVUV光源の製作に成功した。このLyman-α線と基本波とでH原子を(1+2)REMPIでイオン化し、H原子を1個まで検出することができた。また、Doppler-REMPI分光法の開発により、表面でのダイナミクス、特に非弾性散乱を分離することも可能となり、極めてS/N比の高い回折パターンが得られることになった。現在、清浄な超高真空の回折散乱槽へのトランスポート系の調整を行っている。
|