研究概要 |
本研究では,誘電体表面におかれた微小散乱体のまわりに局在すると考えられる光近接場の性質を,原子との相互作用を通じて明らかにするために,あたらしい表面近傍原子のレーザー分光計測技術を開発し,実験結果と理論研究の結果の比較を行うとともに,より多くの精密な情報が得られる原子線散乱実験装置を開発し,散乱原子線の計測技術を整えている. 研究初年度においては,まず気体原子セルにおいて,セシウム原子の速度選択的励起とそのエバネッセント波検出を利用した高分解レーザー分光法を完成し,セル表面に付着させた直系200nmの誘電体微小球が,その近傍の原子スペクトルに及ぼす影響を観測した.観測には,超微細準位間の光ポンピングを応用したポンプ・プローブ分光による壁面に対して垂直方向の原子の速度選択と,エバネッセント波による飽和吸収分光を利用した水平方向の速度選択を行い,原子ビーム実験をシミュレートした.この結果,垂直方向にほぼ静止した原子に関連するスペクトルに,光近接場を介しての共振器量子電気力学効果と考えられる有意のシフトがあらわれた.また,このような結果を考察するための理論的基礎として,さまざまなモード関数を基底としたベクトル場のアンギュラースペクトル展開とその間の変換を定式化し,これらを用いたスペクトルシフトや遷移確立の変化などの計算を実行している. これらの研究と並行して,原子線散乱実験の準備を終え,エバネッセントイオン化光を用いた二光子共鳴イオン化分光系の評価,イオンカウンティングによる感度の向上を行っており,局所的光近接場の擬運動量としみこみ深さのさらに高精度な測定と,本研究で理論的に予測しているエバネッセント表面電磁場の偏極状態の計測を行う.
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